はじめに

  1.  「麻」という言葉から連想される事柄は、人によっていろいろと異なることでしょう。
     「肌触りの清涼感から夏衣料は麻に限る」とか,「合繊
    との混紡品は高級なソフト感があってさわやかだ」とか、「純白な麻のハンカチーフには気品と清涼感が漂っている」とか、「麻の化粧用パウダーは吸湿性があって快適よ」とか麻の特性を称賛して連想される人が少なくないことでしょう。
     麻は紀元前7000年頃から栽培され、衣類その他の日用雑貨に利用され、人々の生活に親しまれてきました。

  2.  文明の高度化に伴い、人々は、自然に慣れ、自然に囲まれて快適に暮らしたいという願望をますます増大させています。今日国際的な課題の一つとして環境保全が叫ばれ、21世紀は「エコロジーの時代」ともいわれています。
     今日、繊維の分野でも、リサイクル問題のほか「エコロジー繊維」の研究開発が活発に進められています。
     しかし、麻は、地球に育まれ、地球に還る人類が最初に発見した天然植物繊維ですから、「エコロジー繊維」の元祖といえます。
     麻は、吸湿性、放湿性、生分解性の3拍子そろった極上の繊維素材です。
     衣料に、産業用資材に関心を高め、麻の特性に着目して大いに活用していきたいものです。


       協会ベランダで育ったリネン


協会ベランダで育ったラミー

 

 



ジュートの花

 
麻の分類と特性
    1−分類
     「麻」という言葉を辞典でみると大麻の説明をしている場合が多いようですが、麻の種類は多く、それぞれの特性も用途も異なります。
     麻の種類、特長、主な産地及び主な用途をまとめてみますと、次のとおりです。
     
    名称 種別 短繊維長(mm)
    太さ(ミクロン)
    主な産地 主な用途
    【靭皮繊維】
    亜麻
    (あま)
     Flax
     Linen
     リネン
    亜麻科
    (一年生)
    20〜30mm
    15〜19ミクロン
     中国
     リトアニア
     ベルギー
     ロシア
     ウクライナ
     衣料用
     寝装
     資材用
    苧麻
    (ちょま)
     Ramie
     ラミー
     からむし
     まお
    葦麻科
    (いらくさか)
    (多年生)
    70〜250mm
    18〜30ミクロン
     中国
     インド
     インドネシア
     衣料用
     寝装
     資材用
    黄麻
    (こうま)
     Jute
     ジュート
    田麻科
    (しなのきか)
    (一年生)
    1〜4mm
    15〜25ミクロン
     バングラデシュ
     インド
     ミャンマー
     中国
     麻袋、紐
     カーペット基布
     ヘッシャンクロス
    洋麻
    (ようま)

     Kenaf
     ケナフ

    錦葵科
    (あおいか)

    2〜6mm

     タイ
     インド
     中国

     壁材用
     ひも
     パルプ代用

    大麻
    (たいま)

     Hemp
     ヘンプ
    桑科
    (一年生)
    15〜25mm
    16〜25ミクロン
     イタリア
     中国
     フィリピン
     衣料用
     ロープ
    【葉脈繊維】
    マニラ麻  Abaca
     アバカ
    芭蕉科
    (多年生)
    3〜10mm  フィリピン
     エクアドル
     ロープ
     帽子用
     ひも
    サイザル麻  Sisal
     サイザル
    石蒜科
    (せきさんか)
    (多年生)
       フィリピン
     ケニア
     タンザニア
     ブラジル
     メキシコ
     ロープ
     ひも



    2−特性
      植物繊維は、植物体の内外部にあって植物体を保護する役目をもつものですから、本来極めて強靭にできています。
     植物繊維は、靭皮(じんぴ)繊維と葉脈(ようみゃく)繊維とに大別でき、前者は、後者と比較して柔らかく、従って、衣類、家庭用品等に利用されています。
      その代表は、亜麻(リネン)とちょ麻(ラミー)です。
     亜麻及びちょ麻の共通の特性は、おおむね次のようにまとめることができます。

    イ 繊維が非常に強い
      麻の繊維は、天然素材の中で「強力」が最も大きく、また「耐水性」により勝れ、水に濡れると強さを増す傾向があります。
    ロ シャリ感、張りがある
      麻の繊維の特性から、製品に「シャリ感」、「張り」、「通気性」があり、接触冷感と併せて「さわやか」な着心地を与えてくれます。
    ハ 涼感を与えてくれる
      天然繊維中で熱の伝導性は最も大きいので、体温を奪って速やかに放熱させ、肌に「接触冷感」「涼感」を与えてくれます。
    ニ 吸熱、発散性に勝れる
      麻の繊維の特性から、水分の吸湿、発散が速く、汗ばんでも肌に「ベトつかず」、速く乾きます。
    ホ 光沢がいい
      亜麻は生成り(きなり)(亜麻色)の、ちょ麻は白く絹様の光沢がよく、優雅な「清涼感」を与えてくれます。
    ヘ 伸度が小さい
      伸びの回復率が小さいため、変形すると元に戻りにくく、「しわ」になり易いのです。
    ト 混紡性に優れる
      他の繊維との混紡、交織等を行っても麻の特性は失われず、むしろ相手繊維と融合して「新たな風合い」が生まれ、それだけに広い用途に向くのです。
    チ 生分解性に優れる
      麻は、植物性の繊維ですから生分解性にも優れ、土に育まれ、土に還るエコロジー時代の繊維として注目されています。

 

麻の産地と用途
    1−産地と利用


     

    靭皮部を利用する亜麻、ちょ麻は、極めて古い時代から地球上に存在(野生栽培)し、衣類、資材用として利用されてきました。


     

    中国では、ちょ麻の栽培が多く、布、紐に利用され、またチャイナグラスとして日本をはじめ国外にも輸出されていました。


     

    エジプトでは、亜麻の栽培が多く、衣料、帆布等のほか、ミイラの包布として利用されていたのが有名です。 

     
     
    我が国の古い時代には、葛(くず)、藤(ふじ)等の繊維も広く利用されましたが、繊維の採取、加工が比較的容易で、着心地も良かった大麻、ちょ麻等が、綿の普及まで、衣類原料の代表的な存在でした。

     
     
     
    インドでは、黄麻の栽培が多く、ガンジス河等の三角州地帯は特に優れた立地条件を備えていました。
    19世紀中頃、英国開発の紡績機械の導入と世界的な麻袋需要に支えられ、工業化が進展し、コーヒー豆、砂糖等の包装用としても多く利用されました。



    2−主な用途
    (1)リネンとラミーの用途
    イ 麻は春夏用衣料、特に夏用衣料の代表
    【1】麻の最大の特徴は、肌触りの清涼感からくる快適性にあり、我が国の蒸し暑い春夏の気候に適しています。古くから「夏は麻に限る。」として、シャツ、ブラウス、肌着、服地、着尺等に広く使用されています。今日では麻の5本指のソックス、アーム手袋も重宝されています。
    【2】他の繊維との混紡等も、他の繊維特性に麻の特性をプラスして、その多様性が賞用されています。

    ロ 麻はインテリア、寝装用に賞用
    【1】麻の清涼感を活かしたものとして、シーツ、ふとん地、枕カバー、蚊帳等の寝装品があります。赤ン坊の寝装品には、すくすく育つ麻にあやかって、麻の葉柄や麻の生地、布が使われてきましたし、元気な赤ン坊は、汗をかきますから、汗を吸いとってくれる麻のシーツでは、寝付きも早く、熟睡します。
     麻の張り、洗濯への対応性も加って、テーブルクロス、ナプキン、椅子カバー、カーテン等のインテリア用にも賞用されています。新幹線等の背もたれのカバーにも麻製カバーが使われています。
    【2】麻の吸湿性を活かしたものの代表は、ハンカチーフで、純白な麻のハンカチーフはえもいえぬ気品と清涼感が漂っています。京都の舞子さんは、麻のハンカチが化粧をくずさないで汗をふきとってくれますので、賞用されているそうです。
     また、麻のフキンも、吸湿性の良さから水気の吸い取りが早く、その上、繊維が長く良質であることから喜ばれています。バーテンさんは、麻のフキンを賞用されています。
     さらに最近では、麻の吸湿性の特徴を活かして、麻の化粧用パウダーが喜ばれています。一流化粧品メーカーから売り出されています。

    (2)黄麻等軟かい麻
    イ 麻袋と産業資材
     ジュートは麻袋(ドンゴロス)として知られ、穀物(米、大豆等)の輸送、保管に使われ、高い評価を得ています(高く積み上げることができ、扱い易い。)。
     また、繊維の「強力」が大きく、耐久性に優れていて、無公害であることから、農業、工業用資材、具体的には寒さ等から樹木を防護する幹巻き、根巻、寒冷紗(目のあらい、薄地の織物)、河川の土留用等緑化資材、街中での防水対策の土のう、インテリア用品等に広く使われています。

    ロ ケナフ
     ケナフは、ジュートの代用として麻袋に使われていましたが、最近、製紙用非木材原料としてナプキン等に使われています。空気中の炭酸ガスを吸収し、パルプの代用になるということから、今後ますます利用されることでしょう。

    (3)サイザル等の硬い麻
     サイザル等は、麻ロープとして知られ、特に水中での耐腐性に勝れていることから、船舶用ロープ、漁網等に好適とされています。
     また、繊維が短小で、強力が大きい特性から、製紙用(フィルター、紙幣)にも使われています。

    麻の種類 主な用途

    亜麻(リネン)
    ちょ麻(ラミー)

     

    (衣料用) 紳士・婦人服地、制服、シャツ、ブラウス、スポーツウェア、
    肌着、上布、ネクタイ、靴下、芯地 等
    (インテリア用) ハンカチーフ、ナプキン、テーブルクロス、ランチョンマット、
    カーテン、椅子カバー、壁装クロス  等
    (寝装用)  シーツ、枕カバー、ふとん地  等
    (その他) 化粧用パウダー、画材キャンバス地、ミシン糸、製紙用 等
    黄麻(ジュート)
    洋麻(ケナフ)
    [軟かい麻]
    麻袋、包装用布、バインダー結束紐、ワイヤーロープの芯
         カーぺット基布、壁装クロス、電線絶縁材、畳表たて糸、マット 等
    大麻(ヘンプ)
    [軟かい麻]
           衣料、ロープ 等
    マニラ麻
    サイザル麻
    [硬い麻]

           靴、鞄、スリッパ、特殊糸、パルプ代替
           船舶用ロープ、漁網糸、バインダー結束紐、靴、鞄、マット
           製紙用  等

     

    3−高級な麻布(上布)
     なお、古い時代から広く賞用されてきた麻製品の一つに「上布」があります。
     上布は、麻の細い糸を産地独特の技法で織りあげ、加工した高級な麻布のことで、よく知られているものに、越後上布(小千谷縮)、近江上布、能登上布、そして沖縄の宮古上布と八重山上布等があります。

 
と家庭用品品質表示法
 家庭用品の品質に関する表示の適正化を図ることにより、一般消費者の利益を保護することを目的として、昭和37年から家庭用品品質表示法(昭和36年法104号、37年10月1日施行)が施行されています。麻製品のうち同法の対象となる「家庭用品」に該当するものについて、「麻」という表示ができるのは、亜麻(リネン)又は苧麻(ラミー)を材料とした製品に限ると定められています(施行令別表第1参照)。
 従って、通常麻という素材で作られた家庭用品であっても、「麻」という表示ができない場合もあります。その場合は「指定外繊維(黄麻)」、「指定外繊維(大麻)」とか素材名で表示(黄麻製マット、マニラ麻帽子等)するなどとすることになります。

 

と日本工業規格(JIS)
 麻関係の日本工業規格としては、次のような規格が制定されています。それぞれの規格の内容については、当協会又は(財)日本規格協会(東京都港区赤坂4-9-22 TEL 03-5770-1571)にお問い合わせください。
 なお、この規格については、5年ごとに見直しを行っております。

繊維用語(原料部門)

○ 天然繊維 JIS L 0204-1 (1998)
○ ジュート袋 JIS Z 1513 (2000)
○ ジュート糸 JIS L 2401 (1992)
○ 麻縫糸 JIS L 2403 (1994)
○ ジュートフエルト JIS L 3203 (1995)
○ 麻帆布 JIS L 3402 (1999)
○ ヘッシャンクロス JIS L 3405 (1987)
○ ガンニクロス JIS L 3414 (1994)
○ 結束ひも JIS B 9211 (1994)